かつては子宮筋腫に対する治療は開腹手術による子宮全摘若しくは筋腫の部分のみを摘出する筋腫核出術が一般的な方法でした。しかし近年は子宮を取らずに温存し、かつ、体への負担を軽減した治療法が注目されてきています。
UAE(子宮動脈塞栓術)は子宮温存治療法の一つとして世界的に急速に普及してきている治療法です。同じように子宮の温存を目的とした子宮筋腫核出手術と比べ適応が広く、ほとんどの子宮筋腫が治療対象となります。1個の場合はもちろん、数えきれないほど多くの筋腫があってもその全てに治療効果が期待できます。
子宮筋腫は、子宮の筋層に存在する平滑筋細胞由来の良性腫瘍です。40歳以上の女性の20‐50%が罹患しているとされる極めて頻度の高い腫瘍です。できた場所によって、粘膜下筋腫(子宮の内側)、筋層内筋腫(子宮の筋肉の中)、漿膜下筋腫(子宮の外側)に分けられています。
代表的な症状は月経量の増加と強い月経痛です。その他の症状としては月経以外の出血、腰痛、頻尿(トイレが近い)等があります。症状は、筋腫のできた場所や大きさ、数によって異なります。一般に子宮の内側にできた筋腫は小さくても症状が強く、月経量が多くなる傾向があります。逆に子宮の外側にできた筋腫は相当大きくなっても症状がでないこともあります。
子宮筋腫は良性の腫瘍ですので、それ自体が生命を脅かすものではありません。しかし放置しておきますと10kgを超えるような大きさまでになることもあります。また複数個できることも珍しくありません。そのため子宮筋腫の治療は腫瘍の大きさを制御することと症状を緩和することが重要な目的となります。主な治療法には薬物による対症療法(痛み止めなど、症状の緩和を目的とした投薬)やホルモン療法(子宮筋腫は女性ホルモンにより成長するため薬剤によって女性ホルモンを抑える治療法)、外科的手術(子宮全摘や筋腫核出術)などがあります。しかし薬物療法では、薬を飲み続けなければならないこと、外科的手術では手技及び全身麻酔に伴う危険性があること、手術そのものを希望されない方がいらっしゃることなどが欠点として挙げられます。
このような現状の中、新しく脚光を浴びている治療法の一つが子宮動脈塞栓術(uterine artery embolization: UAE)です。UAEは1995年に最初の報告がなされて以来世界中に普及してきています。我が国でもこれまで自由診療で施行されていましたが高額でした。今回、保険適応されたことで金銭面での負担が少なくなり、婦人科(治療の適応の決定と治療後の経過観察)と放射線科(カテーテル塞栓術の施行)の協力のもと、ますます盛んになっていく治療法と考えられています。
UAE(ユーエーイー:子宮動脈塞栓術)は、カテーテルと呼ばれる細い管を用いて、子宮筋腫に血液を送る動脈をふさぐ血管内治療法の一つです。UAE自体は歴史的にはずっと以前より出産後の大量出血などに対して安全に施行されてきました。子宮筋腫に対しても全世界で施行されており、これまでに数千例の報告があります。UAEにより血流を減らされた筋腫は縮小します。その縮小率は平均40~70%と言われており、症状の改善率は90%、患者さんの満足度は90%との報告があります。開腹手術に比べ体への負担(侵襲)は少なく、患者さんは目の覚めた状態(鎮静剤で少し眠くて痛みを感じない状態)で治療を受けます。傷は足の付け根のカテーテルを挿入する部分に小さな傷跡が残る程度です。
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治療の手技は、血管造影検査及び血管内治療を専門としている放射線科医師が行います。
右脚の付け根付近の比較的太い動脈にカテーテルを挿入し、X線透視をみながら、子宮動脈にまで進めます。そこから更に子宮筋腫を栄養する動脈の枝が分岐するところまでカテーテルを進め、そこから塞栓物質という血管をつめるための薬剤を注入します。塞栓終了後はカテーテルを抜去し、挿入部の圧迫止血を行います。手技に要する時間は1.5時間くらいですが、術後はカテーテルを挿入していた部分の止血のために4~5時間の仰臥位(仰向け)安静、更に数時間のベッド上安静が必要です。原則、歩行できるのは明朝からになります。その間はトイレ歩行ができませんので、術前に膀胱留置カテーテルを入れさせていただきます。
術後最も高頻度で見られる副作用は治療直後の腹痛です。対策として通常の痛み止めに加えて、当院では希望される方には硬膜外麻酔を用いています。術前に、麻酔科医師が硬膜外麻酔用のチューブを入れさせていただきます。
子宮筋腫の塞栓術は、通常1晩以上の入院を要します。当院では術前の検査、準備を含めて2晩(2泊3日)の入院予定です。術後に見られる腹痛も、翌日には軽減し退院される方がほとんどです。
なお、この治療は原則としては今後の妊娠を希望されない方に行う手技です。