てんかんの罹病率は総人口の約1%であり、北陸3県では約3万人が罹患していると推定できます。このように患者数が多い疾患にもかかわらず、北陸地域においてはてんかん学に精通した医師を擁する医療機関が極めて少ないのが現状です。当センターは、てんかんの専門的診断から外科的治療まで実施できる医療機関です。
てんかんセンター外来を受診するには、通院している医療機関からの診療情報提供書と受診予約が必要です。完全予約制となっておりますので、14:00~16:00の間にお電話でお問い合わせください。
㈹076-252-2101
脳神経内科 廣瀬 源二郎 (日本てんかん学会認定専門医・指導医)
脳神経内科 三秋 弥穂
脳神経内科 紺谷 智 (日本てんかん学会認定専門医)
小児科 中川 裕康 (日本てんかん学会認定専門医)
脳神経外科 大西 寛明 (日本てんかん学会認定専門医)
2021月4月1日 現在 | 月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 | 土曜日 | ||||||
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午前 | 午後 | 午前 | 午後 | 午前 | 午後 | 午前 | 午後 | 午前 | 午後 | 午前 | ||
てんかん外来 | 成人 | 廣瀬 (予約) | 紺谷 (予約) | 廣瀬 (予約) ・ 大西 (予約) | 廣瀬 (予約) | 紺谷 (予約) ・ 大西 (予約) | 交替制 | |||||
小児 | 中川 (予約) | 中川 (予約) | 中川 (予約) | 中川 (予約) | 中川 (予約) | 中川 (予約) | 中川 (予約) | 中川 (予約) |
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図1:日本の年齢別てんかん患者数の推定 |
(Epilepsia 2005; 46: 470-672)
(Epilepsia 2014; 55: 475-482)
欠神発作
定型欠神発作(脳波は左右同期性の3Hz棘徐波複合のバースト)
非定型欠神発作(脳波は2.5Hz以下の棘徐波複合、低振幅速波、他)
特徴的な欠神発作:ミオクロニー欠神発作, 眼瞼ミオクロニー
ミオクロニー発作
ミオクロニー発作(てんかん性の瞬間的な不随意的筋収縮、ピクツキ)
ミオクロニー脱力発作(ミオクローヌスとほぼ同時に四肢・体幹筋の無緊張)
ミオクロニー強直発作
(ミオクローヌスとほぼ同時に四肢・体幹筋の緊張)
(Epilepsia 2010; 51: 676-685 )
前兆 | 症状原性領域 |
---|---|
片側体性感覚性前兆 | 対側1次体性感覚野 |
両側体性感覚性前兆 | 2次体性感覚野 補足感覚運動野 |
単純な聴覚性前兆 | Heschl回(上側頭回の一部) |
複雑な幻聴 | 側頭葉連合野 |
単純な片側視野の 視覚性前兆 |
対側の視覚皮質 (Brodmann area 17,18) |
複雑な視覚性前兆 | 後頭葉・側頭葉の連合皮質 |
恐怖 | 扁桃体 |
幻臭 | 扁桃体 |
上腹部不快感 | 島回 |
デジャブdéjà vu | 側頭葉底部 |
(「Oxford Textbook of Epilepsy and Epileptic Seizures」 2013, Oxford Univ. Press, 一部改変)
てんかん発作かそうでないかを見極めることは非常に重要です。
(Oxford Textbook of Epilepsy and Epileptic Seizures, 2013, 一部改変)
てんかんでない人をてんかんと診断してしまうことは、その逆よりも身体的・精神的そして社会的ダメージが大きいかもしれません。
一過性の意識消失と聞くとすぐに「てんかん」を連想する人がいるかもしれませんが、一過性の意識消失を起こす原因には様々なものがあります。その原因へのアプローチは図2のように考えるとわかりやすいでしょう。児童が集会で立っている状態で顔面蒼白になって倒れた(ごく短い時間で痙攣することもあります)とか、年配の男性が立って排尿していたところ倒れたとかの現象は、すぐにてんかん発作ではなく一過性の血圧低下による失神だとわかります。
しかしてんかん発作との鑑別がときに困難な発作もあります。その代表が心因性非てんかん性発作です。この発作は「偽発作」とか「ヒステリー発作」とよばれることがありましたが、これらは不適切な用語です。表2に鑑別点を示します。最も信頼のおける鑑別点は発作のときに眼を開けているか閉じているかです。てんかん発作では開眼、心因性発作では閉眼していることが非常に多いのです。
観察項目 | 全般性強直間代発作 | 心因性非てんかん性発作 (PNES) |
---|---|---|
緩徐な開始 | 焦点性の始まりはありうる(前兆) | まれではない(しばしば数分持続) |
運動性の活動 | 典型的な発作パターン(強直、間代、強直間代) | 突然の休止を伴うが一定の周期を示す身体をくねらせる動きがよくある |
非同期生の腕や脚の動き | めずらしい | よくある |
合目的な動き | 非常にまれ | ときどき |
律動的な骨盤の動き | まれ | ときどき |
後弓反張 | 非常にまれ | ときどき |
遷延する発作性脱力 | 非常にまれ | ときどき |
皮膚 | チアノーゼがよくある | 長時間持続してもチアノーゼなし |
発作時に泣く | 非常にまれ | ときどき |
閉眼 | まれ | 非常によくある |
開眼への抵抗 | 非常にまれ | よくある |
瞳孔反射の維持 | しばしば消失 | 非常によくある |
発作時の反応性 | まれ | ときに一部保たれている |
発作時の失禁 | まれではない | まれではない |
2分を超える発作の持続 | めったにない | よくある |
発作後の見当識回復 | たいてい分単位 | しばしば意外に早かったり遅かったり |
咬舌 | まれではない(舌側方) | ときどき(舌先端) |
外傷 | よくある(火傷) | よくある |
夜間の発作(from 'sleep') | よくある | まれではない |
(Oxford Textbook of Epilepsy and Epileptic Seizures, 2013, 一部改変)
特発性てんかんとは、遺伝性の素因が原因となったもので、いわば生まれもった脳の性質によるてんかんです。特発性てんかんに属する病気はそれぞれ発症年齢がだいたい決まっているのが特徴です。症候性てんかんとは、脳の器質性病変つまり画像検査で目に見える脳の異常が原因となったものです。
症候群診断が決まると治療法が決まりますし、これからどうなるかという予後が推測できます。特発性局在関連てんかんのほとんどの患者は、ある年齢に達すると自然に発作がなくなってしまいます。特発性全般てんかんでは抗てんかん薬がよく効くため、約80%の患者で発作は寛解します。一方、症候性局在関連てんかんでは、抗てんかん薬で発作を良好に抑制できる患者は50%程度です。症候性全般てんかんは、てんかん性脳症ともよばれ、どのような抗てんかん薬を用いても発作が消失することは少なく、ほとんどはてんかん発作以外に知能や運動機能の発達障害を伴います。
この1989年の分類は最終的な病名が決まらなくても4つの大分類のどれに入るかがわかれば治療方針が立ち、更に患者に予後を説明できるという点で便利なものでした。しかし提唱されてから四半世紀が経過してその間にてんかん学も進歩して、この分類法では具合が悪いことも出てきたため、2010年にILAEが新しい分類案を提唱しました。しかし新しい分類ではこれまでの4つの大分類が排除されたため、最終的な病名までたどり着けないと「てんかん」としかいえなくなりました。つまり新しい分類案は、速やかに治療法を決定し予後について患者に説明するための「道具」の役割を果たさなくなってしまいました(Epilepsy Research 2006; 70 (supple): 27-33)。現時点ではてんかん学の見地から誰もが納得し、かつ医療現場で便利に使える分類はありません。表3は新旧分類の折衷案の一例です。
大分類 | 症候群 | 発症 | 予後 | 第1 選択薬 |
---|---|---|---|---|
特発性焦点性 てんかん |
a)良性乳児てんかん | 乳児期 | 良好 | PB |
b)中心・側頭部に棘波を伴う良性小児てんかん | 3-13歳 | 良好 | CBZ | |
c)Panayiotopoulos症候群 | 2-8歳 | 良好 | CBZ | |
d)遅発性小児後頭葉てんかん(Gastaut型) | 6-17歳 | 良好 | CBZ | |
症候性焦点性 てんかん |
辺縁系てんかん | |||
a)海馬硬化症を伴う内側側頭葉てんかん | 学童期 | 不定 | CBZ | |
b)他の部位と原因で規定されるてんかん | さまざま | 不定 | CBZ | |
新皮質てんかん | ||||
c)Rasmussen症候群 | 6-12歳 | 不良 | タクロリムス、 免疫グロブリン |
|
d)片側痙攣-片麻痺症候群 | 1-5歳 | 不良 | CBZ | |
e)他の部位と原因で規定されるてんかん | さまざま | 不定 | CBZ | |
f)早期乳児遊走性部分てんかん | 乳児期 | 不良 | PB | |
特発性全般 てんかん |
a)乳児良性ミオクロニーてんかん | 3M-3歳 | 不定 | VPA |
b)小児欠神てんかん | 5-6歳 | 良好 | VPA | |
c)若年欠神てんかん | 10-12歳 | 良好 | VPA | |
d)若年ミオクロニーてんかん | 12-18歳 | 良好 | VPA | |
e)全般強直間代発作のみを示すてんかん | 12-18歳 | 良好 | VPA | |
f)ミオクロニー脱力発作を伴うてんかん | 3-5歳 | 不定 | VPA | |
g)ミオクロニー欠神発作を伴うてんかん | 1-12歳 | 不定 | VPA | |
てんかん性脳症 | a)早期ミオクロニー脳症 | 新生児期 | 不良 | steroids |
b)大田原症候群 | 乳児早期 | 不良 | steroids | |
c)West症候群 | 乳児期 | 不定 | steroids | |
d)Dravet症候群 | 乳児期 | 不良 | stiripentol | |
e)Lennox-Gastaut症候群 | 3-10歳 | 不良 | VPA | |
f)Landau-Kleffner症候群 | 3-6歳 | 不定 | VPA | |
g)睡眠時持続性棘徐波を示すてんかん性脳症 | 4-7歳 | 不定 | VPA | |
家族性 (常染色体優性) てんかん |
a)良性家族性新生児/乳児けいれん | 新生・乳児期 | 良好 | PB |
b)家族性外側側頭葉てんかん | 小児・思春期 | 不定 | CBZ | |
c)常染色体優性家族性夜間前頭葉てんかん | 小児期 | 不定 | CBZ | |
d)熱性けいれんプラス | 小児・思春期 | 不定 | VPA | |
反射てんかん | a)特発性光感受性後頭葉てんかん | 10-12歳 | 不定 | VPA |
その他、視覚感受性てんかん | 2-5歳 | 不定 | VPA | |
b)視覚以外の刺激によるてんかん発作 | さまざま | 不定 | VPA, CBZ | |
進行性 ミオクローヌス てんかん |
a)Sialidosis | 思春期 | 不良 | VPA, TPM |
b)Lafora病 | 6-19歳 | 不良 | VPA, TPM | |
c)Gaucher病 | 不定 | 不良 | VPA, TPM | |
d)Ceroid Lipofuscinosis | 乳児-成人 | 不良 | VPA, TPM | |
e)赤色ぼろ線維ミトコンドリア脳症(MERRF) | 10歳以降 | 不良 | VPA, TPM | |
f)Unverrichit-Lundborg病 | 10歳前後 | 不良 | VPA, TPM | |
g)歯状核・赤核・淡蒼球・ルイ体萎縮症(DRPLA) | 20歳以下 | 不良 | VPA, TPM | |
てんかんの診断 を要しない発作 |
a)熱性痙攣 | 3-5歳 | 良好 | |
b)良性新生児発作 | 新生児期 | 良好 | ||
c)孤発発作/孤発てんかん重積状態 | さまざま | |||
d)薬物ないし他の化学物質による誘発発作 | さまざま |
(Renzo Guerrini. Lancet 2006; 367:499-524, 一部改変)
問診の際に患者や家族からもたらされる情報はとても重要であり、その情報が診断の決め手になることもあります。初めて医療機関を受診する際には、次のような事柄をなるべく正確かつ簡潔に医師に伝えることが重要です。
てんかんを診断するための検査には、ビデオ-脳波モニタリング(図4、5)、MRI(図6)、PET(図7)やSPECTといった核医学検査、神経心理学的検査などがあります。なかでも重要なのが、発作時の患者の様子と脳波とを同時に記録できるビデオ-脳波モニタリングです。てんかんの発作診断と症候群診断のためには、発作時の現象を正確に把握することが最も重要です。たとえ患者本人やそばにいる人が認識できない小さな発作や睡眠中の発作でも、モニタリングによって捉えることができます。また、ビデオ-脳波モニタリングは心因性非てんかん性発作の診断でも有用です。
てんかんを治すための外科的な治療ができる可能性は十分にあるが、てんかん発作の発生源を頭皮電極による脳波では確定できない場合には、手術によって脳の表面や脳内に電極を設置してビデオ-脳波モニタリングをすることがあります(図8)。
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図4 ビデオ-脳波モニタリングの光景(イメージ画像) 個室に脳波装置とビデオカメラが設置されている。検査中はなるべくベッド上ですごすことが望ましいが、電極箱(矢印)の接続をはずせば自由に動くことができる。 |
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図5 ビデオ-脳波の画面(イメージ画像) 発作時の患者の様子と脳波を同時に観察することができる。 |
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図6 3テスラMR画像(脳冠状断) 矢印で示したものが左の海馬で、右側に比べて小さい。この症例は左海馬硬化症を伴った左内側側頭葉てんかん。 |
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図7 FDG-PET画像(脳冠状断) 発作を起こしていないときの左内側側頭葉てんかん。矢印が示す領域は対側と比べて暖色が乏しく、この領域は機能が低下していることを表す。 |
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図8a 頭蓋内電極 |
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図8b 頭蓋内電極設置後のX線側面像 |
てんかんの症候群診断が確定したら全てのケースで薬物治療が開始されるわけではありません。例えば中心・側頭部に棘波を伴う良性小児てんかん患者の大多数では発作頻度が低く(年に数回)、また発作は睡眠中に起こるため経過観察だけとなることもあります。
てんかんに用いる薬は「抗てんかん薬」とよばれています。この用語から「てんかんそのものを治す薬」という印象を受けますが、残念ながら現在なおてんかんを治す薬あるいはてんかんの発症を抑える薬は存在しません。全ての薬剤は発作を抑制するものであり、病気自体を治すものではありません。したがって「抗発作薬」とよぶ方がより的確かもしれません。
抗発作薬はてんかん症候群におけるてんかん発作の型によって選択されます。原則として、全般性発作にはバルプロ酸、焦点性発作にはカルバマゼピンがまず使用されるべき薬剤です(表4)。
発作型 | 第1選択 | 併用 | 使用しない (発作が増悪する可能性) |
---|---|---|---|
全般性強直間代発作 | VPA | CLB, LTG, LEV TPM, VPA |
(欠神発作やミオクローヌスを伴う場合、あるいは若年ミオクロニーてんかんが疑われる場合) CBZ, GBP, PHT |
強直発作、脱力発作 | VPA | LTG | CBZ, GBP |
欠神発作 | ESM, VPA | ESM, LTG, VPA | CBZ, GBP, PHT |
ミオクローヌス | VPA | LEV, TPM, VPA | CBZ, GBP, PHT |
焦点性発作 | CBZ | CBZ, CLB, GBP, LTG, LEV, TPM, VPA |
(NICE clinical guideline 2012, UKを改変)
CLB: クロバザム、CBZ:カルバマゼピン, ESM: エトスクシミド, GBP: ガバペンチン
LTG:ラモトリギン, LEV: レベチラセタム, PHT: フェニトイン, TPM: トピラマート, VPA: バルプロ酸
ここで注意しなくてはいけないことは、発作型あるいは症候群診断を間違えて不適切な抗発作薬を投与すると、増悪してしまう発作があることです。例えばミオクローヌスを起こす全般てんかんにカルバマゼピンやフェニトインを使用してしまうと、発作が増悪してしまいます。
治療の原則は、できるかぎり少ない種類の薬剤を、必要最小限の量で投与することです。単一の薬剤では効果が不十分な場合には、複数の薬剤を投与することがあります。薬物療法を継続する場合、薬剤の発作抑制効果と副作用とのバランスに注意を払う必要があります。また小児の場合には、薬剤の学習能力への影響などに配慮する必要があります。
全てんかん患者の約70%では、薬剤で発作を十分にコントロールできます(図3)。ところがどんな薬剤を用いても、発作を十分にコントロールできないてんかんがあります。薬剤抵抗性てんかんとは、2種類の適切かつ服用を継続できる抗発作薬による治療をしても発作が消失しないてんかんです。このような薬剤抵抗性のてんかん患者は全てんかん患者の30%、日本には約30万人存在すると推定できます。
(Epilepsy Res 2011; 96 :225–30)
手術タイプ(研究数) | 患者数 | %発作消失 (95% CI) |
---|---|---|
側頭葉 (40) | 3895 | 66 (62 – 70) |
側頭葉外 (2) | 169 | 34 (28 – 40) |
前頭葉 (7) | 486 | 27 (23 – 30) |
頭頂葉 (1) | 82 | 46 (35 – 57) |
後頭葉 (1) | 35 | 46 (29 – 63) |
脳梁離断 (3) | 99 | 35 (26 – 44)* |
MST (2) | 74 | 16 (8 – 24) |
(Brain 2005; 128: 1188 – 1198)
* 転倒発作の消失率
この表からわかることは、側頭葉てんかんは患者数と研究数が他のてんかんより圧倒的に多く、かつ手術による発作消失率が最も高いことです。側頭葉以外の部位の手術では、発作消失率は50%を下回ってしまいます。側頭葉てんかん患者の大多数は、発作がなければ健康な人と何ら変わらない社会生活を送ることができるのです。したがって側頭葉てんかん、特に側頭葉の内側にある記憶の働きをする海馬の異常(海馬硬化症)が原因である内側側頭葉てんかんは、手術によって発作が消失する可能性がとても高いため、診断されれば速やかに手術を受けるべきだと考えます。
このてんかんの発作は、海馬などが存在する側頭葉内側部から始まります。発作の前兆として、喉にこみあげてくるような上腹部の不快感(小児では「お腹が痛い」と訴えることがあります)、意識が遠のく感じ、恐怖感、幻覚などを自覚することがあります。前兆に続いて、動作が止まってぼんやりして正しい応答がなくなります。口や手に一定の動作(自動症)が見られることがあります。発作後もしばらくぼんやりしていたり、混乱して無理に動こうとしたりします。本人は発作時のことを覚えていません。側頭葉てんかんは抗発作薬が効かないことが多く、思春期を過ぎた頃から病状が悪くなり、患者の精神機能や社会生活にも悪影響をおよぼします。手術は側頭葉切除術あるいは選択的扁桃体海馬切除術を行います。てんかんの原因となっている側頭葉を切除しても、大きな後遺症はありません。
表6は側頭葉てんかんの手術成績です。典型的な海馬硬化症を伴う内側側頭葉てんかんであれば、発作消失率は90%近くにも達します。
筆頭著者 | 発表年 | 経過観察期間(年) | 患者数 | 意識減損を伴う発作の消失 Engel's class I (%) |
---|---|---|---|---|
Radhakrishnan | 1998 | >2 (mean 4) | 175 | 77 |
Bien | 2001 | >2 (mean 5) | 148 | 62 |
Jutila | 2002 | >1 (mean 5) | 140 | 56 |
Alpherts | 2004 | 6 | 71 | 68 |
Spencer | 2005 | >2 (median 5) | 297 | 68 |
Cohen-Gadol | 2006 | >0.5 (mean 6) | 372 | 79 |
Al-Kaylani | 2007 | >2 (mean 6) | 150 | 70 |
Asztely | 2007 | >8 (mean 12) | 51 | 65 |
Tanriverdi | 2008 | 5 | 100 | 64 |
Elsharkawy | 2009 | 5 | 434 | 71 |
Ramos | 2009 | 2 | 105 | 85 |
Elliott | 2013 | >2 (mean 7) | 116 | 89 |
では側頭葉てんかんの手術にはどれくらいの危険が伴うかというと、手術を要するような重篤な合併症(深部におよぶ感染など)が起こる確率が1.5%、神経症状が永久に残る確率が4.1%、精神症状(幻覚や妄想など)が永久に残る確率が1.9%という研究報告があります。
(Epilepsia 2013; 54: 840-847)
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図10 部分剃毛による左側頭葉てんかん手術 皮膚切開線(左耳の前から前額部生え際まで)の両側約1cm幅の頭髪を切るだけ。 |
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Cyberonics, Inc 図11 迷走神経刺激療法 左頚部迷走神経に電極、左前胸部に刺激装置 |
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Engel Class, %発作減少 | ||
I, 100% II, >90% III, 50-90% IV, <50% | Total | |
患者数 (%) | 121 (4.6) 200 (7.6) 1012 (38.4) 1301 (49.4) | 2634 |
(J Neurosurgery 2011; 115: 1248-1255)
精神障害者保険福祉手帳や障害年金が認められるためのおよその基準を表8に示します。てんかん発作の条件を満たしていなくても、合併している知的障害や精神障害が重篤な場合には認定されます。
障害の程度 | 障害の状態 |
---|---|
1級 | 十分な治療にかかわらず、A又はBが月に1回以上あり、かつ常時の介護を要する |
2級 | 十分な治療にかかわらず、A又はBが年に2回以上、若しくはC又はDが月1回以上あり、かつ日常生活が著しい制限を受ける |
3級 | 十分な治療にかかわらず、A又はBが年に2回未満、若しくはC又はDが月1回未満あり、かつ日常生活若しくは社会生活(労働)が制限を受ける |